ザッツ第一期世代

 1974年に最初の「ザッツエンターテイメント」が公開されました。10才の僕は母と叔父に連れられて有楽町の丸の内ピカデリーまで見に行った。モダンバレエの先生をしていた母の影響で、小さい頃から踊りに接する環境に育った僕は、このMGMミュージカルの世界をすんなり受け入れてしまった。サントラ盤を買ってもらい、プログラムと照らし合わせて一つ一つの作品のタイトルとスターの名前を覚えていった。そしてテレビ放映された「雨に唄へば」「オズの魔法使い」「イースターパレード」などをビデオ録画しては、何回も見入っていた。(その頃は、まだビデオソフトがほとんど発売されていなかった。)そうやって一つの作品をきちんと見始めると、MGMのミュージカル映画、しいては全てのミュージカル映画を見尽くしてみたいという願望が生まれるのであった。
 しかし1000本以上あるミュージカル映画の85%くらいは日本未公開なのである。日本の映画館でかかる可能性はほとんどない。かくして、ミュージカル映画を求める長〜いけわしい旅が始まるのであった。中学生の時、輸入盤のお店でMGMミュージカルのサントラ盤のシリーズを見つけて、小ずかいを溜めては買いそろえていった。「ザッツ...」に収録されていない作品もあったりして、中の英文の解説を辞書をひきながら拾い読みしていた。「この映画はラジオシティミュージックホールで封切られたんだ!」そんなくだらん事を知っては喜んでいた。そしてジャケットのポスターを眺めながら、まだ見ぬミュージカルシーンを思い浮かべていました。
 渋谷に「すみや」というお店がある。CDが存在する前で、ビデオソフトもまだ発売される前、海賊版のミュージカル映画のサントラ盤がずらりとならんでいた。そのほとんどが単色刷りのジャケットで、曲目が書いてないのも多かった。音も悪く、実にチープな作りであった。それでも見たことがないようなタイトルのレコードが何百枚とあってワクワクした。幻のミュージカル映画の音が聞けるだけでもありがたかった。それほど情報に飢えていたのである。今思うと、こんなレコードによく¥2〜3000も払ってたと思うのだが、当時は宝物だったのだ。

 80年代に入ると、ビデオソフトが少しずつ発売されるようになってきた。その頃はまだ高く、1本1〜2万円ぐらいした。高校生の頃、「東京フィルムサービス」という、輸入物の、映画の8ミリフィルムとビデオを売る通販の会社を知った。そのカタログの中に「TILL THE CLOUDS ROLL BY」という日本未公開のMGMのオールスター映画のビデオが載っていた。僕はその年のお年玉を全部注ぎ込んで購入した。¥29500もしたのである。「若草の頃」はすみやで買った。たしか¥18000ぐらいだったと思う。輸入版だから当然字幕はない。MGMの代表作ですら、日本ではまだビデオ化されてるのがほとんどなかったのである。

 渋谷の公園通りを登ってすぐ横道に入ったところに「ビデオランド」があった。輸入ビデオを販売、レンタルするお店でした。僕の記憶では2泊3日で¥1500だったと思う。買えば2万円ぐらいする時だったから、それでも安いと思った。「ブリガドーン」とか「恋のてほどき」など押さえの作品は、ここでレンタルしてダビングしました。(本当はいけないのだが)ここに行けば珍しいものも見れました。ジュディガーランドの「アニーよ銃をとれ」の未公開映像とかもありました。あちこちにTSUTAYAがある現在からしたら、信じられませんが、20年前はとても貴重なお店でした。感謝。

 80年代後半になってくると、日本でも代表的なMGM作品はリリースされるようになってきたが、まだ¥14800ぐらいしていた。僕はこの頃アメリカへ語学留学していた。MGMがテッドターナーに買収されてから、見たかった作品がどんどんリリースされて、たった20ドルぐらいで手に入った。「ザッツ...」公開から15年ぐらいたってようやく見ることができるようになってきたのだ。それにアメリカにいると、テレビでビデオ化されていない作品がオンエアされるからたまんない!レコードでタイトルだけ見ていた作品が実際に見れるのである。日本に帰りたくなかったです。
 
 ざっと僕のミュージカル映画ファン歴をたどってみましたが、たぶん同じような道のりを歩んできた方がたくさんいると思います。知人で娯楽映画評論家の佐藤利明さん、作家の乗越たかおさん、タップ仲間の天野俊哉さんもほぼ同世代で、ミュージカル映画を愛しています。この「ザッツ...」公開からその魅力に取付かれた人たちを「ザッツ第一期世代」と名付けさせていただきました。ある本によれば、トーキー初期から現在までに作られたハリウッドミュージカル映画は、短編なども含めると1300本以上あるようです。僕はたぶん400本ぐらいは見たと思います。これからもミュージカル映画を求める旅は続きます。

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